「◯◯さん、俺、どうしても許せない奴がいて、そいつを殺して自首したんですよ」
「そいつを殺すことで刑務所に入ることになってもよかったんです」
「そいつは俺だけじゃなく、まわりの連中にも辛い思いをさせてたんです」
「俺も一度は許しました。泣きながら歯を食いしばって許しました」
「でも、そいつは…同じことをまたやったんです」
「やつはずっと逃げ回っていたから、見つけ出してメッタ刺しにしました」
「そして俺は、血だらけのまま警察に自首したんです」
「１５年の懲役で、もう４年が経ちました」
「最初は自分なりに納得してたんですが、最近は本当にこれでよかったのかわからなくなる時があります」
「あんなヤツの為に自分の１５年という時間を
無駄にしたことが本当によかったのか…」
「◯◯さん、どう思いますか？」
「俺がしたことは間違っていたんですかね」
ある日、服役中のモモはこんなことを同じ工場の受刑者Mさんに訊ねられました。
「俺がしたことは間違っていたんですかね」
どんなトラブルがあったのかは詳しく話してくれなかったし、殺人ですからモモの方から詳しく聞くのも気まずい。そもそも他人が服役した経緯にあまり興味はもてなかったし、殺人なんて重たすぎる。ただ聞くことに専念してましたが、話している本人も本気で答えを求めてるようにも思えなかった…。
刑務所はテレビドラマや映画のような人間関係を持てるような場所ではないけど、少しでも話をしたり作業中の行動を見てればその人がどんな人間なのかはある程度わかります。まわりにかなり気を遣いながら緊張して生活しているのもあるし、トラブルの原因はシャバと同じで人間関係が原因だから人に対しても敏感になる。
話をしてくれたMさんは若い頃に会社を立ち上げ従業員を数十人雇用する中小の社長だったそうです。
本当かどうかはわからないけどモモは信じました。
モモが服役して工場に配属され同じ班にはいたものの、一年くらいほとんど会話することがなかった人ですが、その問い掛けをされてからたまに話すようになりました。
モモが独居なので、特にしがらみなく聞くことができ、誰にも話すことはなかったので一応信頼してくれたんだと思います。
刑務所では「誰にも言わないから」って話したことが、すぐ噂になるんだよね…😞。
工場での人間関係の話をすることがほとんどでしたが、シャバから送られてきた手紙に添えられた写真を見せてくれることもありました。
ただ話をしていて勘繰りが強かったり、まわりとうまくいかず孤立している人だとも感じた。
そのうち他の受刑者から「○○さんはなんであいつと話してるの？」っと聞かれることがありましたが、悪い人ではなかったし別に気にすることもなかったです。
😐
しばらくしてそのMさんがある日突然いなくなりました。何かしらトラブルがあって調査になり、他工事に飛んでしまったようです。雑居房で生活していた人がトラブルで飛ぶことはよくあることですが、Mさんと他数名がいなくなりました。その理由を他の雑居房や独居の人間が興味本位に訊ねたり、トラブルのあった部屋の人間が部屋以外の人に話すことは良くない事とされていたので、Mさんが飛んだ理由はわからなかったですが、飛ぶ少し前くらいから人間関係でうまくいってないようなことを愚痴っていたのでそれが原因かとも思います。
どんな理由があっても殺人に共感することはできません。でも犯罪を犯した人たちには、その犯罪を行動に移してしまうまでの背景があると思います。それはこの世に生まれ出た瞬間から始まることだとも思います。そしてその人生の最終章（犯罪）のみを裁かれて刑務所に。
Mさんはまだ何年かは塀の中にいるはずです。モモにはとんでもなく悪い人には思えなかった人ですが、自分の憤慨する気持ちを抑圧する立場にあり、それを話す事ができる人がまわりにいなかったような気がしました…。
子供の頃から…。
だから、事件を起こした詳しい動機もモモには話さなかったような気がします。
今思うに親身に話を聞いてあげれば良かったかなとも思う…。
何故なら、話すことで罪に向き合うことができるし、過去にとらわれずに前に進むことができる。
まだまだ生きなくちゃいけないからね！
日本の刑務所も少しずつ変わりはじめてるようですが、今も自分の本当の気持ちを話せない場所だと思います。そんな環境でも自分の犯した罪と向き合って前に進める人もいますが、そうでない人もたくさんいます。薬物依存症に罹患する人も、そのなりやすい下地があると思う。
アメリカのラィファーズ（自助グループ）のような繋がりを持てる環境が刑務所にあれば、薬物依存症の受刑者も含めてシャバで前向きに生きていける人が増えるような気がします。
今読んでいる本で刑務所での記憶がよみがえり記事にしてみました。この本の事はあらためて記事にしたいと思います。
